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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)217号 判決

ドイツ連邦共和国

デー-31832 スプリンゲ

原告

ビゾンーベルケ ベーレ ウント グレテン ゲー.エム.ベー.ハー.ウント カンパニー カーゲー

同代表者

ギュンター ゼーガー

ハンスーギュンター シュバルツ

同訴訟代理人弁理士

福田武通

福田伸一

大川洋一

東京都中央区日本橋本町3丁目8番4号

被告

三井木材工業株式会社

同代表者代表取締役

伊地知節三

同訴訟代理人弁理士

尾股行雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が平成2年審判第15755号事件について平成6年4月21日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文1、2項と同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「圧締養生を要する堆積物の圧締クランプ並びに解締方法」とする特許第1493501号発明(昭和52年1月8日特許出願、昭和59年8月23日出願公告、平成1年4月20日設定登録、以下「本件発明」という。)についての特許権者であるが、原告は、平成2年8月24日、被告を被請求人として本件発明について特許無効審判を請求し、平成2年審判第15755事件として審理された結果、平成6年4月21日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年6月6日原告に送達された。

二  本件発明の要旨

堆積物の上面および下面にそれぞれ定盤が配設され緊圧金具により圧締状態にある養生済ブロックをプレス内に送入し加圧して該緊圧金具を外し、該養生済ブロック上方の定盤をプレス上面に係着させたまま解圧して堆積物を載置せる下方定盤をプレスから送出する解締作業と、圧締養生前の堆積物を載置した下方定盤をプレス内に送入し、プレス上面に係着せる上方定盤を介して加圧して緊締金具を装着し、解圧後圧締ブロックをプレス内から送出す圧締クランプ作業とを同一プレスにて交互に行うことを特徴とする圧締養生を要する堆積物の圧締クランプ並びに解締方法。

三  審決の理由の要点

1  本件発明の要旨は前項記載のとおりである。

2  そこで、請求人(原告)が主張する無効理由について検討する。

(1) 本件発明が「BISON SYSTEM(E954201010-0275/01」(本訴における甲第3号証。以下、本訴における書証番号で表示する。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたか否かについて検討する。

〈1〉 甲第3号証には、(a)「無端マットはグロスサイズに切断され、コール(当て板)と共にクランプキャリッジ(下方定盤)内に積重ねられる。このボードの堆積物は液圧プレスで締付け寸法に圧縮され、ロッキング装置により加圧状態に保持される。・・・養生工程中、堆積物は完全に正確な寸法に締め付けられていなければならない。・・・予定のサイクル時間で作られたこのパネルのパッケージは多数個の堆積物を養生する硬化室へ送出される。・・・硬化工程を制御可能な条件下で良好に行うため緊締された堆積物は熱処理する硬化室で予備硬化される。このようにして、堆積物は約6~8時間後に硬化室から出される。その後、クランプキャリッジ内の堆積物は解圧され、そして、アンロックされ、それにより、各パネルは夫々のコールから分離可能となる。・・・クランプキャリッジと加圧前に各堆積物上に置かれた加圧ビーム(上方定盤)はシステムに戻される。」という技術的事項が記載されているものの、(b)少なくとも、本件発明の必須の構成要件である「養生済ブロック上方の定盤をプレス上面に係着させたまま解圧して堆積物を載置せる下方定盤をプレスから送出する解締作業と、圧締養生前の堆積物を載置した下方定盤をプレス内に送入し、プレス上面に係着せる上方定盤を介して加圧して緊締金具を装着し、解圧後圧締ブロックをプレス内から送出す圧締クランプ作業とを同一プレスにて交互に行う」という一連の工程については記載されていない。

〈2〉 (a)請求人(原告)は、このような一連の工程に係る点は、甲第3号証において掲載されている複数の写真及び鳥瞰図を参照すれば示唆されていることが明らかである旨主張するが、それぞれの写真が所定の状態状況を写したものであり、また鳥瞰図が木材-セメント ボード プラントの全貌を示したものであるとしても、(b)これらをもって、「物の発明」に係るものならいざ知らず、本件発明のように「方法の発明」に係るものにおける前記したような一連の工程までも示唆されているとは到底いうことができない。

〈3〉 本件発明は、この一連の工程に係る構成を採ることにより、明細書に記載された「かなり重量のある上方定盤の揚げ降ろし、移動といった煩瑣なハンドリングが全くなくなり、作業性を著しく向上させることができるものであって、大幅な自動化も可能となる」という本件発明に特有の効果を奏するものと認められるから、本件発明は、甲3第号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(2) 次に、「Holz als Roh-und Werkstoff誌」(1975年12月号:表紙)(甲第4号証)、同上誌(1976年5月号:表紙)(甲第5号証)、「WORLD WOOD誌」(1976年12月号:表紙 第3頁 第7頁 第100頁)(甲第6号証)をみるに、〈1〉これらにおいて、甲第3号証に示された木材-セメント ボード プラントによく似たプラントの別の角度からみた鳥瞰図がそれぞれ示されていることが認められ、そして、請求人は、「これら甲第4号証ないし甲第6号証の鳥瞰図によれば硬化室の前に敷設されたレールに、プレスから硬化室に入るレールが十字状に、又、硬化室から出るレールがT字状に交わり、プレス以外に硬化済みの堆積物上から上方定盤を外して保持する装置は何等示されていない。」と述べているが、〈2〉この事実をもってしても、甲第3号証と同じく本件発明の必須の構成要件である前記した一連の工程まで示唆されているとまではいうことができないから、本件発明は、甲第4号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

(3) 更に、本件発明が、甲第3号証に記載された発明に、「WORLD WOOD誌」(1975年1月号:表紙第1頁、第17頁ないし19頁)(甲第7号証)、「H0lz als Roh-und Werkstoff誌」(1976年12月号:表紙 第443頁ないし448頁)(甲第8号証)、「Holz-Zentralblatt誌」(1975年9月19日号:表紙第1435頁、第1436頁)(甲第9号証)及び「Holz-Zentralblatt誌」(1973年4月25日号:表紙 第737頁)(甲第13号証)に記載された発明を加えて総合的にみて、これら各甲号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたか否かについて検討する。

〈1〉 (a)甲第7号証の「プレス内でマットとコール(当て板)の堆積物の圧縮が始まる。ストローク下降工程(加圧工程)が終わると載置台の各側部に挿入してあるバーをトッププレートと連結し、それからトッププレートはプレスの上部プラテンから外される。」という記載事項からみて、同号証には、「トッププレート(上方定盤)はプレスの上部プラテンに着脱可能に係着されている」という技術的事項が記載されていると認められると共に、更に、同号証には、「マットは開放した載置台(下方定盤)に高さが1m近くになるまで堆積される。それから載置台は前に転進してプレスのプレート間に位置させる。そこで液圧プレスは閉じてマットを所定の圧力まで圧縮し、その時点でバー(緊締金具)を挿入してロックし、載置台の頂部を閉じる。プレート(上方定盤)と載置台内の最上層のマントの間にディスタンス・ピースを挿入しても良い。それからプレスの圧力を徐々に開放し、マットの圧縮をプレスのプレートから載置台を閉に保持するクランプバー(緊締金具)へと移す。最終圧力はプレスでの圧力よりも低下するが、緊締金具による緊締を解除するまでは緊締された載置台によって維持される。緊締された載置台は2チャンネルの予備養生炉5基の一つに転進し、炉内でその載置台(堆積物含む)は80~90℃の温度下に8時間留まる。同じプレスが載置台の緊締を開放するために再度必要とされ、そのときに予備養生したパネルは堆積から分離できるようになり、縁取りし、それから12~14日間養生するためにパレット上に積重ねる。」という技術的事項も記載されていると認められるが、(b)これらの記載事項からみても、甲第3号証と同じく、本件発明の必須の構成要件である、方法に係る技術的事項を要旨とする前記した一連の工程まで示唆されているとまでは断定することができない。また、(c)甲第8号証において、下方定盤上に載った堆積物がプレス内に搬入され、プレスは上部に上方定盤を保持している写真が掲載され、甲第9号証において、下方定盤上にマットを堆積している状態の写真、プレス内で堆積物を挟んだ下方定盤と上方定盤とを緊締金具で連結した状態の写真、上方定盤と下方定盤とを緊締金具で連結してその間に堆積物を載置している写真が掲載されていると認められたとしても、(d)これらをもって、甲第8号証、第9号証に、本件発明の必須の構成要件である前記した一連の工程まで示唆されているとは到底いうことができないし、更に、甲第13号証においても、やはり、前記した一連の工程までは示唆されているとはいうことができない。

〈2〉 要するに、甲第3号証をはじめ、これら甲第7号証ないし甲第9号証、甲第13号証のいずれにおいても、本件発明のように「方法の発明」に係るものにおける前記したような一連の工程については記載されているということが、若しくは記載されていると断定することができないし、本件発明は、この一連の工程に係る構成を採ることにより、先にも述べたように、明細書に記載された本件発明に特有の効果を奏するものと認められるから、本件発明は、甲第3号証、甲第7号証ないし甲第9号証及び甲第13号証に記載された発明を総合的にみても、これら発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

(4) なお、請求人が提出している甲第10号証の「ELEVENTH PARTICLEBOARD議事録」は本件特許出願の出願後に頒布された刊行物と認められ、その内容が本件無効審判請求のために意図的に作成されたものでないとしても、ここに示された技術内容を根拠にして本件発明の特許を無効にすることができないことは詳細に論ずるまでもないことである。

(5) ところで、請求人は、郷司聨平を証人とする証人尋問によって、また、甲第11号証の「書状」と甲第12号証の「宣誓書」によって、更には、本件特許出願が出願公告されたときに異議申立をしたニチメン株式会社の異議申立理由補充書に添付の甲第15号証及び甲第16号証(審決書記載の書証番号)によって、甲第3号証「BISON SYSTEM(E 954201010-0275/01)」が本件特許出願前に頒布された事実を立証しようとしているが、この事実が立証されたとしても、本件発明は、前述したとおり、甲第3号証、甲第4号証ないし甲第6号証、甲第7号証ないし甲第9号証、及び甲第13号証に記載された各発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、本件発明の特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものではない。

(6) 以上のとおりであるから、前記の証人尋問は行う必要が認められず、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。

四  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点1は認める。同2(1)〈1〉(a)は認める。同2(1)〈1〉(b)は争う。同2(1)〈2〉(a)は認める。同2(1)〈2〉(b)は争う。同2(1)〈3〉は争う。同2(2)〈1〉は認める。同2(2)〈2〉は争う。同2(3)〈1〉(a)、(c)は認める。同2(3)〈1〉(b)、(d)は争う。同2(3)〈2〉は争う。同2(4)ないし(6)は争う。

審決は、請求人(原告)の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件発明の特許を無効とすることはできないと判断しているが、以下詳述するとおり誤りである。

1  審決は、本件発明は甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないと判断しているが、本件発明は、甲第3号証に記載されたパネル製造方法において、緊圧金具の取付け位置を下方定盤から上方定盤に変更し、堆積物圧締時の緊圧金具の係止位置(ブロック解締時の緊圧金具の離脱位置)を緊圧金具の上端から下端へ変更したにすぎないものであり、甲第3号証記載の方法から本件発明を想到することは当業者であれば容易になし得る程度のことである。

(1) 本件発明は、同一の(1台の)プレスによりクランプの圧締と解締を行うもの(以下この方式を「同一プレス共用方式」という。)であり、緊圧金具10の上端が上方定盤8に固定されて下方に垂下し、緊圧金具10の下端が下方定盤9に装着又は取外し可能な構成(以下この方式を「垂下型緊圧金具方式」という。)となっていて、プレス1による加圧は下側から上側へ向けて行われる方法(以下この方式を「下方定盤押上げ型加圧方式」という。)のものである。

ところで、甲第2号証(本件発明の特許公報)の第2欄14行ないし19行の「養生済ブロックの解締用プレスを圧締養生前堆積物の圧締クランプ用プレスと別個に設ける場合と、同一プレスで共用する場合とがあるが、いずれにせよ解締されたブロックは上方定盤を堆積物上に載置したままプレス外に搬出されて製品の取出しが行われていた。」との記載から、同一プレス共用方式を採用し、同一の(1台の)プレスによりクランプの圧締と解締を行う方法が従来方法として知られていたことがわかる。

しかして、同一プレス共用方式、垂下型緊圧金具方式、下方定盤押上げ型加圧方式を同時に採用することを前提とすると、本件発明以外の従来方法としては、フック3を設けず、緊圧金具10の解放後、上方定盤8を養生済堆積物上にそのまま載置して下降させ、上方定盤8をいったん養生済堆積物上から取り下ろした後に新たな養生前堆積物上に持ち上げ載置する方法(以下「第2方法」という。)と、フック3を設け、緊圧金具10の解放後、上方定盤8を養生済堆積物上にそのまま載置して下降させ、上方定盤8をいったん養生済堆積物上から取り下ろした後にプレス上側固定板2に持ち上げて係着させる方法(以下「第3方法」という。)が考えられ、これ以外の方法は見いだせない。すなわち、同一プレス共用方式、垂下型緊圧金具方式、下方定盤押上げ型加圧方式を同時に採用することを前提とした場合には、基本的に、本件発明、第2方法及び第3方法の三つの方法のみに限定される。

次に、クランプの圧締と解締に用いるプレス機が1台のみである同一プレス共用方式は採用するが、垂下型緊圧金具方式や下方定盤押上げ型加圧方式は採用しないとすれば、さらに他の方法が考えられる。まず、緊圧金具の形式を、垂下型緊圧金具方式のように「緊圧金具の上端を上方定盤に固定して下方に垂下させ、緊圧金具の下端が下方定盤に装着又は取り外し可能な構成」とするのではなく、まったく逆に「緊圧金具の下端を下方定盤に固定して上方に突き出させ、緊圧金具の上端が上方定盤に装着又は取り外し可能な構成」とすることが考えられる。また、プレスの加圧方式についても、下方定盤押上げ型加圧方式のように「プレスの可動部が下方定盤側にあり、プレスによる加圧が下側から上側へ向けて行われる構成」とするのではなく、まったく逆に「プレスの可動部が上方定盤側にあり、プレスによる加圧が上側から下側へ向けて行われる構成」とすることが考えられる。

そうすると、この種のパネル製造方法は、同一プレスを共用することを前提とすれば、考えられる方法としては全部で12通り(3×2×2)の方法がありうることになる。

(2)〈1〉 甲第3号証は、本件発明によって生産される製品と同一種類の製品の生産方法について記載した刊行物であって、その表紙を除く第4頁「Model of Production Plant」(製造プラントの一例)の欄の中央よりやや下部の左端には、「Press」とあり、その引出し線が指し示す右端には箱状の機械が製造ラインに対して1台のみ図示されているから、甲第3号証の製造プラントにおいて採用されているクランプの圧締と解締は同一の(1台の)プレスにより行われているものと認められ、同一プレス共用方式を採用したものであるということができる。

同一プレス共用方式を採用する方法は、上記(1)のとおり全部で12通りであることが判明しているから、甲第3号証に記載された方法は、その12通りのパネル製造方法のうちのいずれかでなければならない。

〈2〉 甲第3号証の表紙を除く第8頁「Pressing」(プレス工程)の欄には、「▲Charging of Clamp Carriage」(パネルのクランプキャリッジへの搭載)との説明が付された写真(以下「写真〈1〉」という。)、「Movement of Clamp Carriage into Press」(クランプキャリッジのプレスへの移動)との説明が付された写真(以下「写真〈2〉」という。)、「Pressing」(プレス工程)との説明が付された写真(以下「写真〈3〉」という。)、「Unlocking」(クランプキャリッジのアンロック)との説明が付された写真(以下「写真〈4〉」という。)が掲載され、表紙を除く第9頁「Hardening」(硬化)の欄には、「Hardening」(硬化)との説明が付された写真(以下「写真〈5〉」という。)が掲載されているが、写真〈1〉ないし〈5〉には上記12通りのパネル製造方法における「下方定盤9」に相当する部材が、写真〈3〉には同じく「プレス下側可動板11」に相当する部材と同可動板を駆動するピストンシリンダに相当する部材が、写真〈1〉ないし〈5〉には同じく「緊圧金具」に相当する部材が下方定盤9に相当する部材に取り付けられ、上方に突出して、写真〈2〉ないし〈4〉及び写真〈5〉には同じく「上方定盤8」に相当する部材が、写真〈2〉には同じく「圧締養生前の堆積物12」に相当する物体が、写真〈3〉には同じく「圧締中の堆積物」に相当する物体が、写真〈4〉には同じく「養生済堆積物7」に相当する物体が、写真〈5〉には「養生室へ搬入される圧締中堆積物」に相当する物体が、それぞれ写されている。そして、写真〈2〉ないし〈4〉に写されているプレス機が同一のプレス機であることは明らかである。

したがって、写真〈1〉ないし〈5〉に示されている機構は、「1台のプレスを使用し緊圧金具が下方定盤に付属し緊圧金具上端が上方定盤に装着される方法でかつプレス下側板が上昇下降することにより圧締を行う方法」に関するものであることは明白である。

〈3〉 ところで、写真〈2〉は、「Movement of Clamp Carriage into Press」(クランプキャリッジのプレスへの移動)との説明から判断すると、圧締前(養生前)の堆積物に相当する物体が下方定盤に相当する部材の上に載置され、プレス内へ送入されつつある状態(堆積物を圧締する前の工程)を示したものと認められるが、写真〈2〉においては、上方定盤に相当する部材と、圧締前(養生前)の堆積物に相当する物体との間が空いている状態にある。また、写真〈4〉は、「Unlocking」(クランプキャリッジのアンロック)との説明及び上記「Hardening」(硬化)の欄中の「・・・ボードの束は、こうして約6~8時間後にチャンバからとりだすことができます。その後、クランプキャリッジの中の束は圧力から解放され、パネルをそれぞれのコール(注:運搬装置)から取り外すことができるようにアンロックされます。」との記載から判断すると、養生済堆積物に相当する物体の上面から上方定盤に相当する部材が離れて圧締状態が解かれた状態(堆積物の養生後でかつブロックの解締後の工程)を示したものと認められるが、写真〈4〉においては、上方定盤に相当する部材と養生済堆積物に相当する物体との間が空いている状態にある。

これらの点と矛盾を生じないように、甲第3号証中の「The clamp carriages and the pressure beams that were placed on each stack before pressure was applied, are also fed back into the system.」の具体的意味を考えると、「緊締が行われる前には堆積物に取り付けられていたクランプキャリッジ(下方定盤)と加圧ビーム(上方定盤)も、解締後はその圧縮済堆積物からはなれ再び製造過程に戻される。クランプキャリッジ(下方定盤)は圧締を行うべき新たな堆積物を待ち受け、加圧ビーム(上方定盤)はプレス上面に係着されたままの状態で新たな堆積物が搭載されたクランプキャリッジ(下方定盤)がプレスに到来するのを待ち受ける。」というものと解すべきである。

上記のとおりであるから、甲第3号証に記載されているパネル製造方法は、前記12通りのパネル製造方法のうち、次のような一連の工程と同一の工程でなければならない。

工程イ.養生済堆積物をプレスから搬出する。養生前堆積物をプレス内に搬入する。上方定盤はフックによりプレス上側固定板に係着された状態にある。下方定盤から緊圧金具が上方に突出した状態にある。

工程ロ.養生前堆積物をプレスヘセットする。上方定盤はフックによりプレス上側固定板に係着された状態にある。下方定盤から緊圧金具が上方に突出した状態にある。

工程ハ.養生前堆積物を加圧(プレス下側可動板が上昇)する。突出した緊圧金具の上端を上方定盤に装着し圧締する。

工程ニ.フックを解放し上方定盤をプレス上側固定板から外す。プレス下側可動板が下降し、プレス上側固定板と圧締ブロックの上面との間が空いた状態になる。圧締ブロックを養生室に搬入して養生する。

工程ホ.養生済ブロックを養生室からプレス内へ搬入する。

工程ヘ.養生済ブロックをプレスにセットする。

工程ト.養生済ブロックを上昇(プレス下側可動板が上昇)する。上方定盤をフックでプレス上側固定板に係着する。

工程チ.プレスをやや加圧(プレス下側可動板がやや上昇)し、緊圧金具の上端を上方定盤から外す。プレス下側可動板が下降し、上方定盤と養生済堆積物との間が空いた状態になる。工程イ.に移行する。

〈4〉 上記結論に立って写真〈1〉ないし〈4〉を再度ながめてみると、写真〈1〉は、下方定盤に相当する部材であるクランプキャリッジに圧締前堆積物が載置される以前の状態を示していることがわかる。写真〈2〉は、クランプキャリッジに圧締前堆積物が載置され、プレス内へ送入されつつある状態を示していることがわかる。写真〈3〉は、上方定盤と下方定盤との間にはさまれた堆積物をプレスしている状態を示していることがわかる。そして、このような状態は、最初に圧締を開始するときに緊圧金具を装着する工程か、あるいはブロックの養生後に解締を行うために緊圧金具を外す工程のいずれかである。写真〈4〉は、養生済ブロックから緊圧金具を外し下方定盤に相当する部材であるクランプキャリッジが下降し、養生済堆積物が自由な状態にある(アンロック状態)となったところを写したものであることがわかる。

(3) 以上によれば、甲第3号証に記載されたパネル製造方法と本件発明の方法との相違は、結局のところ、上方定盤と下方定盤とを連結してブロックの圧締や解締を行わせる緊圧金具が上方定盤から垂下するか、あるいは下方定盤から上方に突出するかの違いしかない。本件発明の特許性を有する点が「上方定盤の処理」にあるとすれば、このような緊圧金具の形式はいわゆる周知慣用技術に属することであって、本件発明は甲第3号証に記載されたパネル製造方法と実質的に同一であるというべきである。

仮にそうでないとしても、本件発明は、甲第3号証に記載されたパネル製造方法において、緊圧金具の取付け位置を下方定盤から上方定盤に変更し、堆積物圧締時の緊圧金具の係止位置(ブロック解締時の緊圧金具の取外し位置)を緊圧金具の上端から下端へ変更したにすぎないものであり、甲第3号証記載の方法から本件発明を想到することは当業者であれば容易になしうる程度のことである。

2(1)  審決は、本件発明は甲第4号証ないし第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできないと判断している。

しかし、甲第4号証ないし第6号証には、甲第3号証に示された木材-セメント ボード プラントとはMaturing(熟成)工程以降の配置が異なるだけで他の工程は非常に類似した同様のプラントの別の角度から見た鳥瞰図が示されており、これらの鳥瞰図には、硬化室から出た硬化済の堆積物から上方定盤を外す装置としてプレス以外のものは何ら図示されていないから、これらの鳥瞰図は圧締と解締とを同一のプレスで交互に行うことを示唆するものといわざるを得ず、甲第4号証ないし第6号証の記載は、甲第3号証の記載事実をさらに裏付けるものと認めるべきである。

(2)  また審決は、本件発明は、甲第3号証、第7号証ないし第9号証及び第11号証に記載された発明を総合的にみても、これら発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないと判断している。

しかし、甲第3号証の記載から本件発明を想到することは当業者であれば容易になし得る程度のことであり、第7号証ないし第9号証及び第11号証の記載及び掲載写真はこのことを裏付けるものである。

第三  請求の原因に対する認否及び反論

一  請求の原因一ないし三は認める。同四は争う。

審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

二  反論

1  原告は、本件発明は甲第3号証の記載から想到容易と主張していながら、甲第3号証の記載以外に本件発明の明細書の記載も加えたものをベースにして検討し、これを基に、甲第3号証の文章、写真、鳥瞰図の内容の特定を行っているものであって、これでは、甲第3号証の記載に基づいてなされるべき本件発明の進歩性判断の基準が全く失われており、許されないことである。

2  甲第3号証には、本件発明における、例えば「上方定盤をプレス上面に係着させたまま解圧する」点や、特定の解締作業と特定の圧締クランプ作業とを同一プレスにて「交互に行う」点の記載ないし示唆はない。

また、本件発明は方法の発明であり、方法とは一定の目的に向けられた系列的に関連のある数個の行為または現象によって成立するから、必然的に経時的な要素を包含するものであるのに対し、甲第3号証の鳥瞰図や写真は、現に示されている状態以外の、それ以前や以後の状態までを語ってはくれず、甲第3号証に記載の方法を理解するうえでの一助となりうるだけのものであるから、もともと甲第3号証の記載で欠落している上記「上方定盤をプレス上面に係着させたまま解圧する」や「交互に行う」点が、鳥瞰図や写真によって、それ以上に解明できるものではなく、この道理からしても、原告の主張は誤っている。

第四  証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも(甲第4号証ないし第13号証についてはその存在も)当事者間に争いがない。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本件発明の要旨)及び同三(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

1  原告は、本件発明は、甲第3号証に記載されたパネル製造方法において、緊圧金具の取付け位置を下方定盤から上方定盤に変更し、堆積物圧締時の緊圧金具の係止位置(ブロック解締時の緊圧金具の離脱位置)を緊圧金具の上端から下端へ変更したにすぎないものであることを理由として、本件発明は甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないとした審決の判断は誤りである旨主張するので、この点について検討する。

(1)  甲第3号証に「無端マットはグロスサイズに切断され、コール(当て板)と共にクランプキャリッジ(下方定盤)内に積重ねられる。このボードの堆積物は液圧プレスで締付け寸法に圧縮され、ロッキング装置により加圧状態に保持される。・・・養生工程中、堆積物は完全に正確な寸法に締め付けられていなければならない。・・・予定のサイクル時間で作られたこのパネルのパッケージは多数個の堆積物を養生する硬化室へ送出される。・・・硬化工程を制御可能な条件下で良好に行うため緊締された堆積物は熱処理する硬化室で予備硬化される。このようにして、堆積物は約6~8時間後に硬化室から出される。その後、クランプキャリッジ内の堆積物は解圧され、そして、アンロックされ、それにより、各パネルは夫々のコールから分離可能となる。・・・クランプキャリッジと加圧前に各堆積物上に置かれた加圧ビーム(上方定盤)はシステムに戻される。」という技術的事項が記載されていることについては、当事者間に争いがない。

ところで、甲第3号証の表紙を除く第4頁「Model of Production Plant」(製造プラントの一例)の欄には、原告の木材-セメント建築ボード製造プラントの鳥瞰図が掲載されており、同図において、「Press」(プレス)は1台のみ表示されていること、甲第3号証の表紙を除く第8頁「Pressing」(プレス工程)の欄に掲載されている写真〈1〉には、「▲Charging of Clamp Carriage」(パネルのクランプキャリッジへの搭載)との説明が付され、クランプキャリッジ(下方定盤)とこれに取り付けられた緊圧金具が写されていること、写真〈2〉には、「Movement of Clamp Carriage into Press」(クランプキャリッジのプレスへの移動)との説明が付され、クランプキャリッジ(下方定盤)とこれに載置された圧締前の堆積物が写されていること、写真〈3〉には、「Pressing」(プレス工程)との説明が付され、加圧ビーム(上方定盤)とクランプキャリッジ(下方定盤)との間にはさまれた堆積物を、クランプキャリッジ(下方定盤)の下方に位置する部材をピストンシリンダで上昇させることによってプレス(圧縮)している状態が写されていること、写真〈4〉には、「Unlocking」(クランプキャリッジのアンロック)との説明が付され、解締された堆積物がクランプキャリッジ(下方定盤)に載置されている状態が写されていること、甲第3号証の表紙を除く第9頁「Hardening」(硬化)の欄に掲載されている写真〈5〉には、「Hardening」(硬化)との説明が付され、堆積物が加圧ビーム(上方定盤)とクランプキャリッジ(下方定盤)との間にはさまれて圧締されているものが写されていることが認められる。

しかしながら、甲第3号証には、本件発明の必須の構成要件である「養生済ブロック上方の定盤をプレス上面に係着させたまま解圧して堆積物を載置せる下方定盤をプレスから送出する解締作業と、圧締養生前の堆積物を載置した下方定盤をプレス内に送入し、プレス上面に係着せる上方定盤を介して加圧して緊締金具を装着し、解圧後圧締ブロックをプレス内から送出す圧締クランプ作業とを同一プレスにて交互に行う」という一連の工程について記載されているものとは認められず、審決のこの点についての認定に誤りはない。

(2)  原告は、甲第2号証(本件発明の特許公報)の第2欄14行ないし19行の記載を根拠として、同一の(1台の)プレスによりクランプの圧締と解締を行う方法が従来方法として知られていたとしたうえ、同一プレス共用方式、垂下型緊圧金具方式、下方定盤押上げ型加圧方式を同時に採用する方法としては、本件発明、第2方法及び第3方法の三つの方法に限定されること、同一プレス共用方式を採用することとした場合に緊圧金具の形式につき垂下型緊圧金具方式を採用する場合とそうでない場合、プレスの加圧方式につき下方定盤押上げ型加圧方式を採用する場合とそうでない場合とをそれぞれ組み合わせると、この種のパネル製造方法は全部で12通りの方法が考えられるということを前提として、甲第3号証に記載されているパネル製造方法は、上記12通りのパネル製造方法のうち、その主張に係る一連の工程と同一の工程でなければならず、本件発明の方法との相違は、上方定盤と下方定盤とを連結してブロックの圧締と解締を行わせる緊圧金具が上方定盤から垂下するか、あるいは下方定盤から上方に突出するかの違いしかない旨主張する(請求の原因四1)が、以下述べるとおり採用できない。

〈1〉 甲第3号証には、前記のとおりのプレス工程や硬化工程に関する説明が記載され、また、鳥瞰図や写真が掲載されているが、クランプの圧締と解締に関する工程についての具体的な説明は記載されていないところ、本件発明の進歩性を考えるにつき対比判断の対象とする甲第3号証の開示内容を把握するについて、原告主張のとおり、同一プレス共用方式を前提とした場合にパネル製造方法として全部で12通りのものがあり、甲第3号証記載のものはその12通りのうちの一つでなければならないということを前提として考えるというのであれば、まず、原告のいう同一プレス共用方式を前提とした場合のパネル製造方法は全部で12通りのものがあるということが、本件発明の出願当時、当業者において周知あるいは技術常識として知られていたことが必要であると解されるが、このことを認めるに足りる証拠はない。ちなみに、原告の指摘する甲第2号証第2欄14行ないし19行の「養生済ブロックの解締用プレスを圧締養生前堆積物の圧締クランプ用プレスと別個に設ける場合と、同一プレスで共用する場合とがあるが、いずれにせよ解締されたブロックは上方定盤を堆積物上に載置したままプレス外に搬出されて製品の取出しが行われていた。」との記載は、上記の点を根拠づけるものとは認められない。

〈2〉 次に、原告の主張は、甲第3号証記載のパネル製造方法が圧締クランプ作業と解締作業とを同一プレスで交互に行うものであることを前提としているが、甲第3号証には、その点についての記載はなく、また、このことを示唆する記載もない。もっとも、上記認定のとおり、甲第3号証の表紙を除く第4頁「Model of Production Plant」(製造プラントの一例)の欄に掲載されている鳥瞰図には「Press」(プレス)が1台のみ表示されているが、クランプの圧締と解締に用いるプレス機が1台のみであれば、必然的に圧締クランプ作業と解締作業とが同一プレスにて交互に行われなければならないというものでなはく、例えば、どちらかの作業を連続的に行うことも十分可能であると考えられ、その場合でも、各圧締プレス作業においては写真〈3〉の状態が、各解締作業においては写真〈4〉の状態が存在することになる。また、前記のとおり、甲第3号証には「クランプキャリッジと加圧前に各堆積物上に置かれた加圧ビーム(上方定盤)はシステムに戻される。」との記載があるが、この記載をもって、甲第3号証記載のパネル製造方法が圧締クランプ作業と解締作業とを同一プレスで交互に行うものであることを裏付けるものとまでは認め難い。この点に関して原告は、上記訳文の原文である「The clamp carriages and the pressure beams that were placed on each stack before pressure was applied, are also fed back into the system.」について、その具体的意味は「緊締が行われる前には堆積物に取り付けられていたクランプキャリッジ(下方定盤)と加圧ビーム(上方定盤)も、解締後はその圧縮済堆積物からはなれ再び製造過程に戻される。クランプキャリッジ(下方定盤)は圧締を行うべき新たな堆積物を待ち受け、加圧ビーム(上方定盤)はプレス上面に係着されたままの状態で新たな堆積物が搭載されたクランプキャリッジ(下方定盤)がプレスに到来するのを待ち受ける。」というものと解すべきである旨主張するが、そのように解すべき合理的根拠はなく採用できない。

〈3〉 更に、原告の主張に係る第3方法の場合について考えると、この方法においては、上方定盤を上面に載置した養生済堆積物がプレス機内に存在する間に、養生済堆積物上の上方定盤を移動手段により取り外し、その上方定盤を移動手段によりプレス上側固定板に係着し、その後養生済堆積物のプレス機からの搬出、養生前堆積物のプレス機への送り込みを行うものも含まれるものと解される。この場合に、緊圧金具の形式を「緊圧金具の上端を上方定盤に固定して下方に垂下させ、緊圧金具の下端が下方定盤に装着又は取り外し可能な構成」(垂下型緊圧金具方式)ではなく、「緊圧金具の下端を下方定盤に固定して上方に突き出させ、緊圧金具の上端が上方定盤に装着又は取り外し可能な構成」に変形した場合について考えると、解締作業後プレス機内にある養生済堆積物上の上方定盤を養生済堆積物上から取り外した後プレス上側固定板に係着し終えた時点では、養生済堆積物は未だプレス機内にあって、下方定盤を介して、下降しているプレス下側可動板上にあり、上方定盤は上記のようにプレス上側固定板に係着されており、したがって、養生済堆積物の上面から上方定盤が離れた状態にあるから、写真〈4〉の状態と全く同じ状態が生じるものと認められる。また、この状態に続いて、養生済堆積物を搬出した後養生前堆積物をプレス機内へ送入しようとする時点では、養生前堆積物はプレス機に送入されつつある下方定盤上に載置されており、上方定盤は上記のようにプレス上側固定板に係着されているから、写真〈2〉の状態と全く同じ状態も生じるものと認められる。

そうすると、甲第3号証に掲載された写真〈1〉ないし〈5〉に示される状態のものが、原告が甲第3号証に記載されているパネルの製造方法であると主張する工程を示したものに限られるものとは必ずしも認められないことになる。

〈4〉 以上のとおりであって、原告の主張は、その立論の前提において失当であるうえ、甲第3号証記載のものにおけるクランプの圧締と解締の具体的工程が明らかでなく、甲第3号証記載のパネル製造方法と本願発明の方法との相違が、上方定盤と下方定盤とを連結してブロックの圧締と解締を行わせる緊圧金具が上方定盤から垂下するか、あるいは下方定盤から上方に突出するかの違いだけであると断定することもできない。

(3)  甲第2号証によれば、本件発明は、「養生済ブロック上方の定盤をプレス上面に係着させたまま解圧して堆積物を載置せる下方定盤をプレスから送出する解締作業と、圧締養生前の堆積物を載置した下方定盤をプレス内に送入し、プレス上面に係着せる上方定盤を介して加圧して緊締金具を装着し、解圧後圧締ブロックをプレス内から送出す圧締クランプ作業とを同一プレスにて交互に行う」という一連の工程に係る構成を有することにより、「かなり重量のある上方定盤の揚げ降ろし、移動といった煩瑣なハンドリングが全くなくなり、作業性を著しく向上させることができるものであって、大幅な自動化も可能となる」(同号証4欄21行ないし25行)という特有の効果を奏するものと認められる。

(4)  以上のとおりであるから、本件発明は甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないとした審決の判断に誤りはない。

2  原告は、甲第4号証ないし第6号証には、甲第3号証に示された木材-セメント ボード プラントとはMaturing(熟成)工程以降の配置が異なるだけで他の工程は非常に類似した同様のプラントの別の角度から見た鳥瞰図が示されており、これらの鳥瞰図には、硬化室から出た硬化済の堆積物から上方定盤を外す装置としてプレス以外のものは何ら図示されていないから、これらの鳥瞰図は、圧締と解締とを同一のプレスで交互に行うことを示唆するものであって、甲第4号証ないし第6号証の記載は、甲第3号証の記載事実をさらに裏付けるものと認めるべきであるとして、本件発明は甲第4号証ないし第6号証に記載された発明に基づいて当事者が容易に発明をすることができたものとはいえないとした審決の判断は誤りである旨主張する(請求の原因四2(1))。

甲第4号証ないし第6号証に、甲第3号証に示された木材-セメント ボード プラントによく似たプラントの別の角度からみた鳥瞰図がそれぞれ示されていることについては当事者間に争いがないが、これらの鳥瞰図が、圧締と解締とを同一のプレスで交互に行うことを示唆しているとまでは認め難いし、甲第3号証には本件発明の前記一連の工程が記載されていないことは前記判示のとおりであるから、原告の上記主張は採用できない。

3  原告は、甲第3号証の記載から本件発明を想到することは当業者であれば容易になし得る程度のことであり、甲第7号証ないし第9号証及び第11号証の記載及び掲載写真はこのことを裏付けるものであるとして、本件発明は上記各甲号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないとした審決の判断は誤りである旨主張する(請求の原因四2(2))。

しかし、甲第3号証の記載から本件発明を想到することが当業者において容易になし得る程度のものと認め難いことは前記判示のとおりである。そして、甲第7号証ないし第9号証及び第11号証に審決摘示の技術事項が記載されていることは当事者間に争いがないが、同甲各号証に、本件発明の必須の構成要件である前記一連の工程についての記載はなく、また、このことを示唆する記載も見いだすことができない。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

4  以上のとおりであるから、本件発明は、甲第3号証、第4号証ないし第6号証、第7号証ないし第9号証及び第13号証に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないとした審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由は理由がない。

三  よって、原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の定めについて、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、同法158条2項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

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